夏こそ燗酒の意気込みで書いてみた

当店では日本酒、特に温めたお酒(燗酒)をおすすめしています。


お酒を好きなお客様であれば、飲んだお酒の印象を言葉にすることが多いのではないでしょうか。

「甘い」「辛い」とか「フルーティーだ」「スッキリしている」とか、もう少し注意深い人であれば「バナナのような香が鼻に抜けて・・」といった時間での変化に注目したり、「○○の酒に似てるなぁ」と自分の経験と照合することで飲んだお酒をマッピングされるお客様もいらっしゃいます。そうして味わいの特徴をあげると同時に、もっとも大事な「好きか嫌いか」(つまり注文した酒がアタリかハズレか)の判断をされると思います。


燗酒の場合、このように印象・判断を早急には言葉にできない味わいがあります。もっと言えば、他のお酒に適用されるような早急な判断は、燗酒においては控えなければならないと思います。


というのも、しっかりした発酵過程を経て、旨味を引き出すよう熟成された純米酒のお燗は、単純な言葉では形容できない複雑味があります。「確固たる旨味のなかに、渋味・酸味・甘味・苦さが絡み合いながらも、微妙なバランスでまとまっている」などといった、その味わいをどう想像していいかの想像もできないような感想を聞いたりもするのが燗酒です。ほかには「野性味」「滋味」などといった共通認識に辛うじて引っ掛かるかどうかのような言葉もよく使われます。さらに温度の変化に伴って薄れて消えていく味や強調される味があったり、全体的な味わいが意外なまとまりを見せたりすることもあるので油断ができません。つまり、私たち素人の手持ちのボキャブラリーでは歯が立たないのです。


もうひとつ早急な判断を控えるべき理由は、燗酒と食べ物の相乗効果、マリアージュ、ケミストリーです。

洋食ではなぜこってりしたソースのかかった赤身肉にフルボディの赤ワインを合わせるのでしょうか。つまり重いものに軽いものではなく、なぜ重いものに重いものを合わせるのでしょうか。

それは主役たる料理を邪魔せず引き立てるのがワインの役割ではなく、あくまでも料理とワインは対等であり、対等な関係の上でしかマリアージュはうまれないからです。

温めることでポテンシャルを十分ひきだされた純米酒は、味わいだけでなく個性という点でも、食事の脇役に甘んじるような役者ではありません。それどころか食べ物にもそれなりのものを要求してくるものです。当店の和洋中メニューと燗酒の相性という方向からもじっくり楽しんでいただければと思います。


大地が育てたお米、神秘とも言える発酵技術、そして成分の変化を見ることができる不可思議な熟成。そうして長い時間をかけて造られたお酒を、温めてじっくり味わうのが燗酒なわけです。